帯状疱疹とは、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化(免疫力の低下に起因)により皮疹が生じるもの。この水痘帯状疱疹ウイルスですが、皆さん幼少期に水ぼうそうになられましたよね。その時すでに感染してしまっているので、多くの方がこのウイルスを持っています。最近は小児の予防接種でワクチン接種されているので、若い方はこのウイルスを持っていない人もいます。
帯状疱疹後神経痛(PHN:Post-Herpetic Neuralgia)とは、帯状疱疹の皮疹が治癒した後も、3か月以上にわたって痛みが続く状態を指します。
日本では帯状疱疹患者の約10〜20%がPHNへ移行するとされており、特に60歳以上の高齢者に多く見られます。痛みは「刺さるような」「焼けるような」と表現されることが多く、日常生活・睡眠・精神状態に大きな支障をきたします。
| 関連キーワード: | VZV再活性化、神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)、アロディニア(異痛症)、慢性疼痛、水痘帯状疱疹ウイルス、神経ブロック、プレガバリン、脊髄後角、中枢感作 |
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帯状疱疹後神経痛の根本原因は、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV:Varicella-Zoster Virus)です。幼少期に水ぼうそうに感染後、ウイルスは体内の神経節(しんけいせつ)* に潜伏し続けます。
* 神経節:神経細胞の細胞体が集まった場所。脊髄(せきずい)の近くに位置します。
皮疹が治っても痛みが残る → PHN
→ 傷ついた神経は徐々に修復されるが、回復速度が遅く、痛みが残存する。強い痛みが長期間続くことによる中枢感作(ちゅうすうかんさ)* により慢性化する。
* 中枢感作:痛みの信号が繰り返されることで、脳・脊髄の神経が過敏になり、わずかな刺激でも強い痛みを感じるようになる状態。
皮疹が出るより前に痛みや皮膚の異常感覚を自覚:火傷のような痛み
皮疹が出現(基本的に片側で1つの神経支配に沿った皮疹) :火傷のような痛み
皮疹の改善とともに痛いは、ビリビリしたような痛みへと変化し、これが残存する。
* アロディニア:通常は痛みを起こさないような軽い刺激(触れる・温度など)でも激しい痛みを感じる状態。PHNの特徴的な症状
これらは発疹72時間以内に点滴または内服での治療を開始し、5~7日間継続することが重要で、早期治療が重症化やPHNへの進展を防ぐ可能性があります。
⚠️ 注意:PHNは「神経の機能異常による痛み(神経障害性疼痛)」であり、ロキソニン®・ボルタレン®などの一般的な消炎鎮痛剤だけでは十分な効果が得られないことが多いです。
50歳以上の方には帯状疱疹ワクチン(シングリックス®または弱毒生ワクチン)の接種が推奨されています。シングリックス®の発症予防効果は約97%、PHN予防効果も約90%以上と報告されています(NEJM 2016)。名古屋市でも助成制度があります(最新情報は市HPをご確認ください)。当院の帯状疱疹ワクチン説明ページはこちらから。
PHNは「神経そのものが傷ついた慢性疼痛」です。薬だけでは効果に限界があることも多く、ペインクリニックでは神経ブロック・インターベンション・薬物療法の組み合わせで痛みの悪循環を断ち切ることが可能です。早期介入ほど慢性化を防ぐ効果が高いとされています。
脊髄の外側にある「硬膜外腔(こうまくがいくう)」に薬を注入し、脊髄を通る痛みの信号を直接遮断します。顔面以外のPHNに有効です。ステロイドを併用することで、神経の腫れを抑え痛みを改善します。
痛みの原因となっている特定の神経根(脊髄から枝分かれしてすぐの神経の根元)に直接薬を注射します。当院では透視下や超音波ガイド下で安全・正確に実施できます。ステロイドを併用することで、神経の腫れを抑え痛みを改善します。
首の付け根にある「星状神経節」という神経の集まりに局所麻酔薬を注射します。交感神経(自律神経の一種)の過活動を抑え、患部への血流改善・痛みの緩和に有効です。
当院では硬膜外ブロックや神経根ブロックで効果不十分な場合の顔面・頭頸部・上肢のPHNに施行いたします。
VAS・NRSなどの痛みスコアを使用
プレガバリン・三環系抗うつ薬・外用薬の組み合わせ調整
部位・症状に応じた神経ブロックを計画・実施
毎回の診察で痛みスコアを記録、柔軟に調整
帯状疱疹後神経痛は自然に治りますか?
一部の方は時間とともに軽快しますが、特に発症から時間が経過した重症例では自然治癒は難しいことが多いです。適切な治療で痛みを軽減できるケースが多いため、「仕方ない」と放置せず早めにご相談ください。
神経ブロック注射は痛くないですか?
注射時にわずかな痛みや圧迫感を感じることがありますが、細い針を使用し、必要に応じて皮膚表面に麻酔を行います。超音波・X線透視ガイド下で安全に実施しており、重篤な合併症は極めてまれです。
プレガバリン(リリカ®)を飲んでいても痛みが取れません
薬だけでは効果が限られるケースもあります。神経ブロックとの併用、あるいは薬の種類・用量の見直しにより、より高い効果が期待できます。ぜひ当クリニックにご相談ください。
| 参考文献: | Dworkin RH et al. Pain 2008 / Johnson RW, Rice AS. NEJM 2014 / Oxman MN et al. NEJM 2005 / Lal H et al. NEJM 2015 / 日本ペインクリニック学会 治療指針2023 / Cohen SP. JAMA 2013 ほか |
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手術を受けたあと、傷はふさがっているのに痛みだけが続いている——そんなお悩みはありませんか。当院では、手術後に長引く痛み(術後痛・遷延性術後痛)に対して、神経ブロック注射やリハビリテーションを組み合わせた治療をご提案しています。
手術は体にとって大きな負担(侵襲)であり、術後にある程度の痛みが出るのは自然な反応です。通常は組織の修復が進むにつれて痛みも徐々に和らいでいきますが、傷が治った後も痛みを伝える神経の働きに変化が残り、痛みが長引いてしまうことがあります。これを「遷延性術後痛(慢性術後痛、英語ではchronic postsurgical pain:CPSPと呼ばれます)」といいます。
国際的な診断分類(ICD-11)では、感染症や腫瘍など他に痛みの原因が見当たらず、手術や組織の損傷をきっかけに新たに生じた、または強くなった痛みが、組織が治癒するのに必要な期間(少なくとも3か月)を超えて続く場合に、遷延性術後痛と考えられています[文献1]。「術後3か月以上たっても痛みが続く」という点が、ひとつの目安になります。
報告によって幅がありますが、手術の種類によって痛みが長引きやすさは異なるとされています。たとえば人工膝関節全置換術(ひざの人工関節手術)の後では11〜34%、人工股関節置換術(股関節の人工関節手術)の後では6〜23%程度との報告があり[文献2]、整形外科の手術はもともと遷延性術後痛が起こりやすい分野の一つともいわれています。ある国内施設の調査では、手術全体での発生率は8.7%、脊椎手術では36.2%、人工関節置換術では19.2%であったと報告されています[文献3]。
これまでの研究から、以下のような要因が痛みの長期化と関連する可能性が指摘されています[文献2,3,4]。
※あくまで「関連が指摘されている要因」であり、当てはまる方が必ず痛みが長引くというわけではありません。
手術の際に神経が引っ張られたり、圧迫されたり、わずかに傷ついたりすることで、神経が過敏になることがあります。過敏になった神経は、本来であれば痛みとして感じないはずの軽い刺激にも過剰に反応してしまい、「傷は治っているはずなのに痛い」という状態を引き起こすと考えられています[文献4]。
痛みが長引く背景には複数の要因が関わっていることが多く、ひとつの治療法だけでは十分な改善が得られにくい場合があります。当院では、痛みの状態を丁寧に評価したうえで、神経ブロック注射・リハビリテーション・薬物療法など複数の治療を組み合わせてご提案しています。
| 治療法 | 内容 |
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| エコーガイド下神経ブロック注射 | 過敏になった神経の興奮を局所麻酔薬で一時的に抑え、痛みの悪循環をやわらげることを目指す治療法です。 |
| リハビリテーション | 痛みのために動かしづらくなっていた関節や筋肉を、専門スタッフのサポートのもとで段階的に動かしていきます。 |
| 内服薬による治療 | 痛みの性質(神経の痛みか、組織由来の痛みか)に応じて、お薬の種類や量を調整します。 |
※治療の効果には個人差があります。症状やこれまでの経過によって適した治療法は異なりますので、診察の中でご相談しながら方針を決めていきます。なお、遷延性術後痛を確実に消失させる治療法は現時点では確立されておらず、この点は今後の研究課題でもあります。
手術後3か月以上たっても痛みが続いている方(より早期でも構いません)、痛みのために日常生活や眠りに支障が出ている方は、一度ご相談ください。早い段階でご相談いただくことで、痛みが慢性化する前にやわらげられる可能性があります。
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CRPS(複合性局所疼痛症候群:ふくごうせいきょくしょとうつうしょうこうぐん)とは、外傷・手術・骨折などをきっかけに発症する、けがの程度や原因に不釣り合いなほど強く・長く続く痛みを特徴とする疾患です。
痛み・腫れ・皮膚の色や温度の変化・発汗異常・関節の動きの制限など、複数の症状が組み合わさって現れます。「なぜこんなに痛いのか」「原因がよくわからない」とお悩みの方が多く、適切な診断と早期の専門治療が回復のカギとなります。
CRPSは以前「反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)」や「カウザルギー(灼熱痛)」とも呼ばれていた疾患です。現在は国際疼痛学会(IASP)の分類に基づき、原因となる神経損傷がないものをCRPS 1型、明らかな神経損傷があるものをCRPS 2型(カウザルギー)と呼びます。
| 関連キーワード: | 複合性局所疼痛症候群、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)、カウザルギー、アロディニア(異痛症)、痛覚過敏、交感神経依存性疼痛、浮腫、皮膚萎縮、骨萎縮(スードック萎縮)、脊髄刺激療法(SCS)、星状神経節ブロック、集学的疼痛治療 |
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CRPSはさまざまなきっかけで発症しますが、典型的には以下のような外傷・処置の後に起こります。
CRPSの発症メカニズムはまだ完全には解明されていませんが、以下の複数の異常が重なって発症すると考えられています。
本来は「けがが治れば痛みも消える」はずですが、CRPSでは神経系が過剰反応した状態(中枢感作・末梢感作)のままになり、傷が治っても痛みの信号が送り続けられます。
交感神経(自律神経の一種で、血管の収縮・拡張・発汗を調節する神経)が過活動状態になり、患部の血流障害・皮膚温度変化・浮腫(むくみ)・発汗異常を引き起こします。
患部で炎症性物質(サイトカイン・神経ペプチドなど)が過剰に放出され続け、神経・組織の過敏状態を維持します。
不安・うつ・破局的思考(「ずっと良くならない」という考え)が症状を悪化させることが知られており、心理的サポートが治療の一部として重要です。
⚠️ CRPSは早期(発症後3〜6か月以内)に専門的治療を始めるほど回復の可能性が高まります。「気のせい」「様子を見ましょう」と放置すると、症状が固定・慢性化するリスクがあります。強い痛み・皮膚色の変化・異常な腫れが続く場合は早めにご相談ください。
CRPSの診断には、2003年に制定されたブダペスト診断基準が国際的に使用されています。以下の4カテゴリーのうち、3カテゴリー以上に症状があり、かつ2カテゴリー以上に診察所見がある場合にCRPSと診断します(他の疾患を除外した上で)。
| 診断の補助検査: | X線(骨萎縮)・骨シンチグラフィー・サーモグラフィー・神経伝導速度検査・MRIなど。これらは鑑別診断や重症度評価に使用します。 |
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CRPSの治療においてリハビリテーションは最も重要な治療の柱です。痛みを恐れず段階的に動かすことが回復につながります。
首の付け根にある「星状神経節(せいじょうしんけいせつ)」という交感神経の集まりに局所麻酔薬を注射します。患部の交感神経の過活動を遮断し、血流改善・浮腫軽減・疼痛緩和をもたらします。特に上肢・顔面・頭頸部のCRPSに有効です。
腰椎の前外側にある「腰部交感神経節(ようぶこうかんしんけいせつ)」に薬を注射します。下肢のCRPSに有効で、皮膚温の上昇・浮腫の軽減・灼熱痛の改善が期待できます。
脊髄の外側の硬膜外腔に局所麻酔薬・ステロイドを注入します。四肢全体のCRPSに対して広範囲の除痛が可能です。繰り返し実施したり、持続注入(持続硬膜外ブロック)も選択できます。
難治性CRPSに対する最も効果的な治療の一つです。脊髄の近くに細い電極を留置し、微弱な電気刺激で痛みの信号を脳に届く前に遮断します。「ビリビリ感(パレスセシア)」に置き換えることで痛みを和らげます。
実施前にトライアル(体験期間)があり、効果を確認した上で本植え込みを行います。欧米のガイドラインでもCRPSの難治例に対して強く推奨されている治療です(Kemler MA et al. NEJM 2000)。
NMDA受容体拮抗薬(中枢感作を抑える麻酔薬)であるケタミンを少量ずつ点滴投与します。神経系のリセット効果があり、他の治療が無効な重症CRPSに選択されます。
CRPSの治療で最も効果が高いとされるのが、ペインクリニック医・リハビリ療法士・心理士・看護師が連携するチームアプローチ(集学的疼痛治療)です。薬物療法・神経ブロック・リハビリ・心理療法を同時並行で行います。痛みセンターを掲げている病院へ紹介いたします。
プレガバリン・抗うつ薬等。ビスホスホネート製剤の検討
| 参考文献: | Harden RN et al. Pain Med 2010(ブダペスト基準) / Kemler MA et al. NEJM 2000(SCS有効性) / Perez RS et al. Pain 2010 / de Mos M et al. Pain 2007 / 日本ペインクリニック学会 治療指針2023 ほか |
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