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痛みと向き合うペインクリニック

腰の痛み

腰痛・坐骨神経痛

1. 腰痛・坐骨神経痛とは?

腰痛は日本人の約80%が生涯に一度は経験するとされる、最も頻度の高い痛みの一つです。多くは数週間で改善しますが、3か月以上続く慢性腰痛は、日常生活・労働に深刻な影響を与えます。手術適応のない腰痛の多くは、内服治療のみで経過観察されていますが、生活習慣に大きな影響を与える痛みの代表例です。

坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)とは、腰から臀部(でんぶ・お尻)を通り、足先まで伸びる「坐骨神経(ざこつしんけい)」がどこかで圧迫・刺激されることで生じる、足へ放散する痛みやしびれです。

関連キーワード: 腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変形性腰椎症、神経根症、硬膜外ブロック、腰痛体操、坐骨神経、下肢放散痛、慢性腰痛、馬尾症候群

腰痛の種類

  • 急性腰痛(ぎっくり腰):突然の激しい腰の痛み。多くは数日〜数週間で回復。足に痛みを感じなければ、椎間関節痛か仙腸関節痛であることが多い。
  • 慢性腰痛:3か月以上続く腰の痛み。原因が特定できない「非特異的腰痛」が約85%を占める。この中には、画像検査では特定できない、椎間関節痛や仙腸関節痛などのペインクリニック以外ではあまり知られていない原因が多くあると感じています。
  • 椎間板性腰痛:椎間板の変性により椎間板に対する圧の変化が痛みを誘発する。
  • 神経根性腰痛:椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症などによる神経への圧迫が原因
  • 坐骨神経痛:腰から足にかけての放散痛・しびれを伴う

2. 原因

① 腰椎椎間板ヘルニア(ようついついかんばんヘルニア)

背骨の椎骨(ついこつ)と椎骨の間にある「椎間板(ついかんばん)*」の中身(髄核:ずいかく)が飛び出し、神経を圧迫することで腰だけではなく、足に痛みやしびれを引き起こします。20〜40代に多いです。

* 椎間板:背骨の骨と骨の間にある軟骨性のクッション。衝撃を吸収する役割があります。

② 腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)

脊髄・神経が通る「脊柱管(せきちゅうかん)」が加齢・変性(へんせい)により狭くなり、神経が圧迫される疾患。間欠性跛行(かんけつせいはこう)*が特徴的で、50〜60代以降に多いです。

* 間欠性跛行:歩くと足が痛くなりしびれてくるが、少し休むと回復し、また歩けるようになる症状。。

③ 変形性腰椎症(へんけいせいようついしょう)

加齢に伴い、腰椎の軟骨・椎間板が磨耗・変形することで生じる痛み。慢性的なにぶい痛みが多く、高齢者に非常に多く見られます。

④ その他の原因
  • 筋筋膜性腰痛(きんきんまくせいようつう):筋肉・筋膜の緊張・疲労
  • 仙腸関節障害(せんちょうかんせつしょうがい):骨盤の関節の機能異常
  • 骨粗鬆症による圧迫骨折(あっぱくこっせつ):重症例は手術が必要。
  • 内臓疾患(腎臓・婦人科疾患など)に伴う関連痛

腰痛は1つの原因だけということは少なく、さまざまな要因が絡んで痛みを発しているため疼痛に合わせた治療法をご提案いたします。

危険なサインに注意(赤旗サイン)

以下の症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。

  • 両足のしびれ・脱力、歩行困難
  • 排尿・排便の障害(トイレに行けない・漏れてしまう)
  • 夜間の強い痛み・安静にしても痛みが続く
  • 原因不明の体重減少・発熱を伴う

3. 症状の特徴

腰痛の主な症状

  • 腰・背中のにぶい痛み・こわばり
  • 動いたときや長時間同じ姿勢のあとに悪化する痛み
  • 前かがみ・立ち上がり動作での痛み
  • 腰から臀部(お尻)・太もも裏・ふくらはぎ・足先への痛み・しびれ(坐骨神経痛)
  • 歩行開始時の痛み(歩き始めが一番つらい)

坐骨神経痛の特徴

  • 痛みが片側(または両側)のお尻から足先にかけて「ビリビリ・ジンジン」と放散する
  • 咳・くしゃみで痛みが増強する(椎間板ヘルニアに多い)
  • 前かがみで痛みが強くなる(ヘルニア)/後ろに反ると楽になる(椎間関節痛のことが多い)
  • 長時間歩くと痛くなり、休むと楽になる(間欠性跛行:狭窄症に多い)

4. 一般的な治療方法

保存療法(手術をしない治療)

安静・生活指導

急性期は無理な動作を避け、痛みに応じた安静を保ちます。ただし長期の完全安静はかえって筋力低下・慢性化につながるため、できる範囲での活動継続が推奨されています(国際的ガイドライン推奨)。

薬物療法
  • NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬):ロキソプロフェン(ロキソニン®)・ジクロフェナク(ボルタレン®)など。急性期の炎症・痛みに有効
  • 筋弛緩薬(きんしかんやく):筋肉の緊張を緩める。エペリゾンなど
  • プレガバリン・デュロキセチン:神経障害性疼痛(しびれ・放散痛)に有効
  • 弱オピオイド(トラマドール等):強い痛みへの短期的な対応
  • 外用薬(貼り薬・塗り薬):患部の局所への消炎鎮痛
リハビリテーション・運動療法

慢性腰痛には、コアマッスル(腹筋・背筋など体幹の筋肉)を鍛える体幹安定化運動が最も効果的とされています(多くのガイドラインで強く推奨)。水中歩行・ウォーキング・ストレッチなども有効です。当院では効果的でかつ自宅でも可能なリハビリを施行してまいります。

装具療法

腰痛コルセット(腰部固定帯)を使用し、腰椎への負担を軽減します。ただし長期の使用は筋力低下を招くため、使用期間の指導が重要です。

5. ペインクリニックでの専門治療

硬膜外ブロック(こうまくがいブロック)

脊髄の外側にある「硬膜外腔(こうまくがいくう)」にステロイドと局所麻酔薬の混合液を注入します。神経の炎症・むくみを直接抑えることで、坐骨神経痛・下肢のしびれ・腰痛に高い効果を発揮します。

神経根ブロック(しんけいこんブロック)

圧迫されている特定の神経根(脊髄から枝分かれしてすぐの神経の根元)にピンポイントで薬を注射します。透視下や超音波ガイド下で安全・正確に実施します。椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症による下肢放散痛に特に有効です。

仙腸関節ブロック(せんちょうかんせつブロック)

骨盤の「仙腸関節(せんちょうかんせつ)*」に局所麻酔薬・ステロイドを注射します。仙腸関節由来の腰痛・臀部痛に有効です。長期効果が得られない場合は、熱凝固療法をご提案いたします。

* 仙腸関節:腰の骨(仙骨)と骨盤(腸骨)をつなぐ関節。意外に多くの腰痛の原因となっています。

椎間板ブロック、脊髄洞神経ブロック

椎間板性腰痛に対して行います。椎間板ブロックは椎間板内まで針を進めますが、脊髄洞神経ブロックは椎間板の手前に針を留置し薬を投与します。診断も兼ねたブロック注射になります。ブロックで疼痛改善が得られたら、PRFなどを提案いたします。

トリガーポイント注射

腰・臀部の筋肉に生じた「トリガーポイント(圧痛点:押すと痛みが広がる硬い部分)」に局所麻酔薬を注射し、筋肉の緊張を解放します。筋筋膜性腰痛に特に有効です。

当クリニックでの治療の流れ

  1. 1
    初診:問診・診察・痛みの評価

    必要時は連携施設でMRI等の画像検査

  2. 2
    薬物療法の調整とリハビリ指導

    自宅でできる腰痛体操の処方

  3. 3
    神経ブロック療法の開始

    部位・症状に応じてブロックの種類を選択

  4. 4
    効果評価・治療の継続・間隔調整

    痛みが改善したら通院間隔を延ばす

参考文献: 日本整形外科学会・日本腰痛学会 腰痛診療ガイドライン2019 / Chou R et al. Ann Intern Med 2007 / Koes BW et al. BMJ 2006 / Machado GC et al. BMJ 2017 ほか

腰椎すべり症(腰椎分離すべり症・変性すべり症)

1. 腰椎すべり症とは?

腰椎すべり症(ようついすべりしょう)とは、腰の骨(腰椎:ようつい)が前後にずれて(「すべって」)、神経の通り道(脊柱管:せきちゅうかん)が狭くなることで腰痛・下肢への放散痛・しびれ・歩行困難などを引き起こす疾患です。

ずれが大きいほど・神経への圧迫が強いほど症状が重くなりますが、軽度のずれでは症状がない方も多いです。ずれ自体の大きさより症状の程度と日常生活への影響で治療方針を決定します。

関連キーワード: 腰椎分離症、椎弓(ついきゅう)、峡部(きょうぶ)、疲労骨折、変性すべり症、腰痛、下肢放散痛、間欠性跛行(かんけつせいはこう)、硬膜外ブロック、神経根ブロック、コルセット、体幹安定化運動、脊椎固定術

2. 種類と原因

主な種類(発症原因による分類)

① 分離すべり症(ぶんりすべりしょう):若年〜青年期に多い

腰椎の後方にある「椎弓(ついきゅう)」の「峡部(きょうぶ)」*という部分に疲労骨折が起き(分離症)、その骨折部を支点に上の椎骨が前方へずれる(すべる)疾患です。

成長期(10〜15歳)のスポーツ選手(体操・野球・バレーボール・バスケットボールなど腰を反る・ひねる動作の多い競技)に好発。腰椎の第4・5番(L4〜L5)に最も多く起こります。

* 峡部:椎弓の細くなった部分(英語でpars interarticularis)。腰を繰り返し反らす・ひねる動作で疲労骨折を起こしやすい部位です。

② 変性すべり症(へんせいすべりしょう):中高年に多い

加齢による椎間板・椎間関節の変性・不安定化によって上の椎骨が前方にずれる疾患です。50〜60歳代の女性に最も多く、第4・5番腰椎(L4〜L5)に好発します。骨粗鬆症・閉経後の女性ホルモン低下も関与します。

③ その他
  • 先天性すべり症:生まれつきの骨格異常によるもの
  • 外傷性すべり症:急性の強い外傷による骨折・脱臼

すべりの重症度分類(Meyerding分類)

  • グレード1(軽症):25%未満のずれ → 多くは保存療法で管理可能
  • グレード2:25〜50%のずれ → 症状に応じて保存療法または手術
  • グレード3:50〜75%のずれ → 手術が必要になることが多い
  • グレード4(重症):75%以上のずれ → 手術の適応になることがほとんど

3. 症状の特徴

腰の症状(局所症状)

  • 腰を後ろに反らす・伸ばす動作で腰痛が増強(前かがみ姿勢で楽になることが多い)
  • 長時間の立位・歩行後に腰の重だるさ・痛みが増す
  • 横になると楽になることが多い
  • 腰に「ずれている感じ」「不安定感」を自覚することも

下肢の症状(神経圧迫による症状)

  • 腰から臀部(お尻)・太もも・ふくらはぎ・足先への放散痛・しびれ(坐骨神経痛のような症状)
  • 間欠性跛行(かんけつせいはこう):歩くと足が痛くなり・しびれてくるが、少し休むと改善してまた歩ける。前かがみ(買い物カートを押す姿勢)で楽になる点が特徴
  • 足の筋力低下・脱力(歩くと足が上がらない・つまずきやすい)

進行例の重篤な症状

  • 安静時にも持続する強い下肢の痛み・しびれ
  • 両下肢の麻痺・強い脱力
  • 膀胱・直腸障害(排尿困難・尿失禁・便秘)

⚠️ 急に排尿・排便に変化があった(尿が出にくい・漏れる)・両足にしびれや力の入らない感じがある場合は、馬尾神経(ばびしんけい)の圧迫による重篤な状態です。緊急受診が必要です。

4. 一般的な治療方法

保存療法

急性増悪期は腰に負荷のかかる動作(長時間の立位・重い荷物・腰を反らす動作)を避けます。ただし長期の完全安静は慢性化・筋力低下を招くため、痛みのない範囲での活動継続が推奨されます。

  • コルセット(腰部固定帯):腰椎を安定させずれの進行を防ぐ。急性期・長時間の立仕事に有用(長期装着は筋力低下を招くため要注意)
  • NSAIDs:腰痛・神経根の炎症に
  • プレガバリン(リリカ®)・ガバペンチン:下肢のしびれ・神経障害性疼痛に
  • 筋弛緩薬:腰部の筋緊張の緩和

リハビリテーション・運動療法(治療の柱)

腹筋・背筋・多裂筋(たれつきん)・骨盤底筋群を鍛える体幹安定化運動(コアスタビリゼーション)が最も重要です。腰椎の安定性を高め、ずれの進行予防・痛みの軽減につながります。

  • 腹式呼吸・ドローイン(おへそを背骨に引き寄せる運動)
  • バードドッグ・デッドバグなどの体幹安定化エクササイズ
  • 水中ウォーキング(浮力で腰への負荷を軽減しながら筋力強化)

保存療法を3〜6か月以上行っても改善しない場合、または馬尾症状(排尿障害・両下肢麻痺)がある場合は脊椎固定術・除圧術などの外科手術が検討されます。

5. ペインクリニックでの専門治療

硬膜外ブロック(こうまくがいブロック)

腰椎の硬膜外腔にステロイドと局所麻酔薬の混合液を注入します。神経根・馬尾神経周囲の炎症・むくみを直接抑えることで、腰痛・下肢への放散痛・しびれを効果的に緩和します。外来で実施でき、繰り返し行うことができます。

神経根ブロック(しんけいこんブロック)

圧迫されている特定の神経根(例:L4またはL5)に超音波またはX線透視ガイド下でピンポイントに薬を注射します。どの神経根が症状の原因かを特定する診断的ブロックとしても活用します。

仙骨ブロック(せんこつブロック)

お尻の骨(仙骨)の穴(裂孔:れっこう)から硬膜外腔へ薬を注入します。腰部〜仙骨部の広い範囲の神経への薬剤到達が可能で、両下肢への症状・間欠性跛行・広範囲の腰痛に有効です。背中に針を刺さずに実施できる比較的安全な方法です。

トリガーポイント注射

腰・臀部の筋肉(梨状筋・腰方形筋・傍脊柱筋等)のトリガーポイントへの局所麻酔薬注射で、筋緊張に起因する腰痛・下肢への関連痛を改善します。

当クリニックでの治療の流れ

  1. 1
    初診:問診・診察・すべりの程度の確認

    X線・MRIの画像を持参、または連携施設で撮影

  2. 2
    コルセット処方・体幹安定化運動の個別指導
  3. 3
    薬物療法の最適化

    NSAIDs・プレガバリン・筋弛緩薬等

  4. 4
    硬膜外ブロック・神経根ブロックの開始

    2〜4週に1回のペース

  5. 5
    馬尾症状・重症例:整形外科への手術紹介
参考文献: Weinstein JN et al. NEJM 2007(SPORT試験) / Watters WC et al. Spine 2009 / 日本整形外科学会 腰椎変性疾患診療ガイドライン2021 / Kalichman L, Hunter DJ. J Bodywork Mov Ther 2008 ほか

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)

1. 筋筋膜性疼痛症候群(MPS)とは?

筋筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome:MPS)とは、筋肉とそれを包む筋膜(きんまく:筋肉を覆う薄い膜状の結合組織)が原因となって生じる慢性的な痛みの総称です。

最大の特徴は「トリガーポイント(発痛点)」と呼ばれる、押すと強い痛みが広がる過敏な圧痛点が筋肉内に形成されることです。この圧痛点を刺激すると、押した場所から離れた部位にも痛みが飛ぶ「関連痛(かんれんつう)」が生じるのがMPS特有の症状です。

MPSの発症頻度

筋骨格系の痛みを抱える外来患者の30〜85%にトリガーポイントが関与するとされています。

職業性・反復動作による慢性疼痛患者では特に高頻度で認められます。

男女ともに幅広い年齢層に起こりますが、デスクワーク・スマートフォン多用者で増加傾向です。

(Tantanatip A & Chang KV, StatPearls Publishing, 2024)

関連キーワード: トリガーポイント、肩こり、腰痛 、ハイドロリリース 、筋膜リリース 、関連痛、慢性疼痛、索状硬結、線維筋痛症との違い、ドライニードリング、自律神経、スマホ首

2. 原因とメカニズム

① 筋膜の癒着と運動終板の異常

筋肉が過剰に使われたり、長時間同じ姿勢が続いたりすると、筋肉内の「神経筋接合部(運動終板:うんどうしゅうばん)」でアセチルコリンが過剰放出されます。これにより筋肉が持続的に収縮(つっぱり続ける)し、局所の血流が低下。エネルギー不足から乳酸・ブラジキニン・サブスタンスPなどの「発痛物質(はっつうぶっしつ)」が蓄積し、筋肉内に硬いしこり(索状硬結:さくじょうこうけつ)とトリガーポイントが形成されます。

さらに近年の研究(PMC, 2024)では、筋膜に含まれるヒアルロン酸の粘性増大が筋膜の滑走性を低下させ、筋膜間の癒着(ゆちゃく)を引き起こすことが病態の一因として注目されています。

② 主な原因・誘因

MPSを起こしやすい要因
  • 長時間の不良姿勢(猫背・前傾姿勢)
  • デスクワーク・スマートフォンの多用
  • 急な運動・筋肉への過負荷
  • 精神的ストレス・睡眠不足(筋肉の回復阻害)
  • 外傷後(むち打ちなど)の筋肉の過緊張
  • ビタミンD・B群欠乏(筋肉代謝の低下)
  • 低体温・冷え(血流不足)
MPSと間違えやすい疾患
  • 頚椎症・腰椎椎間板ヘルニア(神経根の圧迫)
  • 線維筋痛症(広範囲・全身性の痛み)
  • 帯状疱疹後神経痛(皮疹の既往が手掛かり)
  • 関節炎・滑液包炎(関節局所の炎症)
  • 内臓疾患の関連痛(心筋梗塞・胆石など)
  • 機能性身体症候群(うつ・不安との合併)

3. 症状

MPSの症状は「どこが痛いのかはっきりしない」「病院で検査しても異常なしと言われた」という訴えが多いのが特徴です。以下のセルフチェックを参考にしてください。

症状セルフチェックリスト

症状・特徴 当てはまる?
首・肩・背中・腰の特定の場所を押すと飛び上がるように痛む(ジャンプサイン)
圧迫した場所から離れた部位に痛みが広がる(関連痛)
筋肉の中にしこり・硬い索状物を触れる(硬結・索状硬結)
痛みで可動域が制限される(首が回らない・腰が曲げられないなど)
同じ姿勢を続けると悪化し、動かすと少し楽になる
天候や疲労・ストレスで症状が波打つように変動する
夜間に痛みが強まり、睡眠が妨げられる
手足のしびれ・感覚の変化を伴う △(神経根症との鑑別が必要)

△印の症状が強い場合は、頚椎症・脊髄症・末梢神経障害など他の疾患との鑑別が必要です。

当院では問診・触診・超音波検査を組み合わせて丁寧に評価します。

代表的なトリガーポイントの部位と関連痛パターン

首・肩まわり
  • 僧帽筋(そうぼうきん)上部:側頭部〜目の奥への頭痛
  • 胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん):顔・耳まわりへの関連痛
  • 肩甲挙筋(けんこうきょきん):肩甲骨の内側の痛み
  • 斜角筋(しゃかくきん):腕・手指のしびれ感
腰・背中・臀部
  • 腰方形筋(ようほうけいきん):腰〜腸骨稜への鈍痛
  • 梨状筋(りじょうきん):臀部〜大腿後面への坐骨神経痛様痛み
  • 多裂筋(たれつきん):腰部・仙骨周囲の深部痛
  • 大腰筋(だいようきん):鼠径部〜前面大腿への関連痛

4. 一般的な治療法

MPSの治療は「痛みの悪循環を断ち切る」ことを目標にします。原因となるトリガーポイントに直接アプローチする方法と、全体的な筋膜環境を整える方法を組み合わせることが重要です。

① 薬物療法

消炎鎮痛薬(NSAIDs)・筋弛緩薬(筋肉の緊張をやわらげる薬)・抗うつ薬(デュロキセチン)・神経障害性疼痛治療薬(ミロガバリン・プレガバリン)などが使用されます。慢性化した症例では多剤併用が一般的ですが、単独では効果に限界があります。

② 理学療法・運動療法

温熱療法・超音波治療・TENS(経皮的電気刺激療法)・体外衝撃波療法(ESWT)などが行われます。2023年のシステマティックレビュー(He P et al., BMC Musculoskelet Disord, PMID: 37173661)では、物理療法の組み合わせが疼痛・機能・QOLを有意に改善することが示されています。

③ 姿勢指導・生活習慣改善

トリガーポイントの再活性化を防ぐための根本的対策として、エルゴノミクス(人間工学的)な職場環境整備・ストレスマネジメント・睡眠改善・ビタミンD補充なども重要です。

5. 当クリニックの治療 ― トリガーポイント注射とハイドロリリース

ペインクリニックでは、MPSの「痛みの根源」であるトリガーポイントおよび筋膜の癒着に直接アプローチすることで、薬だけでは取り切れない慢性痛を速やかに和らげます。当院では、超音波(エコー)を使ってリアルタイムに針先を確認しながら施術することで、安全性と精度を高めています。

トリガーポイント注射 vs ハイドロリリース:違いと使い分け

トリガーポイント注射(TPI) ハイドロリリース(HR)
対象 筋内のトリガーポイント(結節・しこり) 筋膜間・筋膜層の癒着
薬液 局所麻酔薬(リドカイン等)±ステロイド 生理食塩水+微量局所麻酔薬
使用機器 触診 or 超音波ガイド 超音波ガイド(必須)
主なターゲット 深部〜表層の圧痛点 筋膜層・神経周囲
エビデンス

SMD −2.09(P=0.001)対薬物療法

(Hamzoian et al., Cureus 2023)

RCTで有意な痛み改善・QOL向上

(Suarez-Ramos et al., Front Rehabil Sci 2023)

特徴 即効性が高い。急性期・局所的痛みに最適 持続効果を期待。慢性・広範囲の筋膜性痛みに有効
最新エビデンス(2023〜2025年)
  • 【TPI】Hamzoian & Zograbyan(Cureus, 2023, PMC10497070)
    4件のRCTメタアナリシスにより、トリガーポイント注射は薬物療法のみと比較して疼痛スコアを有意に改善(SMD = −2.09, 95%CI: −3.34〜−0.85, P=0.001)。
  • 【ハイドロリリース RCT】Suarez-Ramos et al.(Front Rehabil Sci, 2023)
    上僧帽筋MPSに対する超音波ガイド下筋膜間ハイドロリリースは、生食+局所麻酔液注入で有意な疼痛・機能改善を示した単盲検RCT。
  • 【UMHT vs TPI 比較RCT】Scientific Reports(2025)
    上僧帽筋MPSに対して超音波ガイド下筋膜水圧剥離術(UMHT)と1%リドカインTPI双方が12週にわたりVAS・SF-MPQ・NDIを有意に改善(UMHT r=0.716, TPI r=0.604)。
  • 【超音波ガイドのレビュー】PMC(2024, PMC11294799)
    超音波ガイドによりTPI・ハイドロリリース・神経周囲水圧剥離のすべての精度・安全性が向上することがシステマティックに示された。

治療の流れ

  1. 1
    問診・触診・エコー評価

    痛みの部位・NRSスコア・生活障害度を確認。超音波で筋膜の癒着・トリガーポイントの深さをリアルタイムに評価します。

  2. 2
    トリガーポイント

    超音波ガイドで針先を安全に誘導できる経路を確認。皮膚消毒後、細針を使用してエコー画像を確認しながら正確に薬液を注入します。

  3. 3
    効果確認・ストレッチ指導

    注射後の圧痛消失・関連痛の変化を確認。即日、運動療法・ストレッチ指導を組み合わせることで効果の持続を高めます。

  4. 4
    定期フォロー・再発予防

    症状に応じて間隔を調整しながら通院。姿勢・生活習慣指導と薬物療法の調整を継続し、長期的なQOL改善を目指します。

注射に関するQ&A

  • どんな注射ですか?痛いですか?

    細針(27G)と超音波ガイドで精度よく行います。刺入時の痛みは最小限です。

  • ステロイドが入っていますか?

    TPIには少量含む場合があります。ハイドロリリースは生食+局所麻酔薬のみが基本です。

  • 何回くらい受ければ良いですか?

    個人差がありますが、週1〜2回×3〜5回程度から始めるケースが多いです。

  • 翌日も仕事できますか?

    はい。日帰り施術で当日の通常生活は可能です。(激しい運動は翌日まで控えます)

  • 副作用はありますか?

    一時的な注射部位の倦怠感・内出血が稀にあります。アレルギー歴は必ず事前にお伝えください。

  • ハイドロリリースは保険適用ですか?

    ハイドロリリースは保険適用内で行っています。(薬液内容・部位により異なります)

6. 日常生活・セルフケアのポイント

注射による治療効果を長続きさせるためには、日常生活での取り組みが非常に重要です。トリガーポイントを再活性化させる「誘因」を取り除くことが再発予防の鍵です。

姿勢・職場環境
  • モニターを目線の高さに設置(首への負担を軽減)
  • 30〜60分ごとに立ち上がってリセット
  • キーボードは肘を90°に保つ高さに調整
  • 睡眠時は頚椎〜腰椎の自然なカーブを保つ枕・マットを選ぶ
  • スマートフォンは顔の高さで持つことを習慣に
ストレッチ・運動
  • 僧帽筋ストレッチ:首を横に倒して15〜30秒キープ(左右各3回)
  • 肩甲骨寄せ運動:両肩甲骨を内側へ引き寄せ5秒保持×10回
  • 腸腰筋ストレッチ:膝つき姿勢で骨盤を前傾させて腸腰筋を伸ばす
  • 水中ウォーキング・ヨガ・ピラティス(全身の筋膜連結に有効)
  • 痛みの強い急性期は無理なストレッチを避ける
温熱ケアの活用

トリガーポイント周囲の血流を高める温熱療法は自宅でも有効です。

入浴(38〜40℃、15〜20分)・ホットパック・カイロなどを痛みのある筋肉部位に1日1〜2回当てることで、筋緊張の緩和と発痛物質の洗い出しを助けます。

急性の外傷直後(打撲・肉離れなど)は冷却優先。慢性的なこり・MPSには温熱が適しています。

参考文献

本ページは下記の文献・ガイドラインをもとに作成しています。

No. 文献情報
1 Hamzoian H, Zograbyan V. Trigger Point Injections Versus Medical Management for Acute Myofascial Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cureus. 2023;15(8):e43424. doi:10.7759/cureus.43424. PMC10497070.
2 Suarez-Ramos C, Gonzalez-Suarez C, Gomez IN, et al. Effectiveness of ultrasound guided interfascial hydrodissection with the use of saline anesthetic solution for myofascial pain syndrome of the upper trapezius: a single blind randomized controlled trial. Front Rehabil Sci. 2023;4:1281813. doi:10.3389/fresc.2023.1281813.
3 Anwar N, Wei X, Yuan J, et al. Current advances in the treatment of myofascial pain syndrome with trigger point injections: A review. Medicine (Baltimore). 2024;103(40):e39885. doi:10.1097/MD.0000000000039885. PMID: 39465697.
4 Kim J, et al. Ultrasound imaging and guidance in the management of myofascial pain syndrome: a narrative review. J Yeungnam Med Sci. 2024;41(3):154-165. doi:10.12701/jyms.2024.00416. PMC11294799.
5 Efficacy of ultrasound-guided myofascial hydrodissection technique in myofascial pain syndrome of upper trapezius: a randomized controlled trial. Scientific Reports. 2025. doi:10.1038/s41598-025-19107-2.
6 He P, Fu W, Shao H, et al. The effect of therapeutic physical modalities on pain, function, and quality of life in patients with myofascial pain syndrome: a systematic review. BMC Musculoskelet Disord. 2023;24(1):376. doi:10.1186/s12891-023-06418-6. PMID: 37173661.
7 Needling trigger points for treating myofascial pain syndrome: A systematic review and meta-analysis (13 RCTs, VAS MD=−1.32, P<0.0001). ScienceDirect. 2025. doi:10.1016/j.jbmt.2025.xx.
8 Tantanatip A, Chang KV. Myofascial Pain Syndrome. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; Updated 2023 Jul 4.
9 日本ペインクリニック学会 治療指針検討委員会. ペインクリニック治療指針 改訂第7版. 2021.(トリガーポイントブロック・筋膜リリース注射の推奨)
10 Ugwoke CK, Cvetko E, Umek N. Pathophysiological and therapeutic roles of fascial hyaluronan in obesity-related myofascial disease. Int J Mol Sci. 2022;23(19):11843. doi:10.3390/ijms231911843.

※ 本ページの情報は一般的な医学知識の提供を目的としており、個別の診断・治療を保証するものではありません。症状についてはペインクリニック専門医にご相談ください。

最終更新:2026年6月 痛みと向き合うペインクリニック(名古屋市天白区)

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